開発設計を進めていくうえで、機能を実現するのに いろいろな方法があってどれを選んだらいいのか わからなくなることがあります。
モノを作って、検証して…を何度も繰り返す、トライ&エラーができればいいですが、今は、それができる余裕のある時代ではありません。
あらかじめ、どれを選んだらうまくいくかを見極める方法があれば、 時間的にもコスト的にも助かります。
それを実現してくれるのが「品質工学」です。
開発設計の初期に、雲をつかむような状態からカタチにしていくのに とても役立つ手法です。 是非みなさんに使ってほしいと思っています。
開発設計の初期に、どれを選んだら最高の性能が出せるかを見極めるために、品質工学を使ってます。なぜこうしたか?こっちのほうがいいんじゃない?と言われたときに、強力な理由付けが得られるので、とても助かりますよ。
品質工学とは?
wikipediaによると、
品質工学とは、技術開発・新製品開発を効率的に行う開発技法。考案者の田口玄一の名を冠してタグチメソッドとも呼ば れる(TMと略される)。特に海外ではこちらの呼び方が一般的である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/品質工学
となっています。
私と同年代の人には、タグチメソッドとか実験計画法と言うほうが通じるような気がします。
開発設計分野では、その中のパラメータ設計をよく使います。
技術的なパラメータを設定して、パラメータを変化させたときに、その結果がどうなるかを見て、 最適な組み合わせ(=条件)を探し出していきます。
全部のパラメータの組み合わせ全てをテストするのではなく、直交表というものにあてはめて その表で指定されるパラメータの組み合わせのみテストします。
なので、実験数が減って効率が上がります。
もし、結果が不十分だったら、パラメータ設定を取替えて結果の変化を見ていきます。
最終的に、最も結果が良かった組み合わせを選択します。
品質工学はなぜ必要か?
品質工学はなぜ必要なのでしょうか?
それは、開発設計したあとの モノの性能という品質を高めたり、維持したりするためです。また、性能のバラツキを抑えることができます。(外部環境が変化しても性能を保っていられる)
その結果、メーカーやブランドのイメージや信頼度を高めることになります。
例えば、温度が変化する場所でモノが使用される場合、 温度変化で性能が変わってしまうと、ユーザーは困ってしまいます。
インクが入ったペンが気温20℃なら普通に書けるけど、38℃では インクが流れて出てきたり、0℃では書けない となると困ります。
ここで、メーカーはペンのインクの組成や配合物を変えることを検討します。
でも、いろいろな材料や微妙な配合の組み合わせが幾つもあって、 どれがユーザーの使用条件を満たすかわかりません。
ユーザーが使用する条件を満たすもの(=品質が良いもの)の条件を探り出す作業を 全ての条件で実施していくとなると、何日かかるかわかりません。
必要最小限の実験で探り出したい..というときに、この方法が用いられます。
この方法のメリットとしては、
・性能の品質がとても良いモノが出来上がること、
・開発設計の時間を短縮できること、
です。
(当初の予想とは全く違うモノの構成になることが多々あります。)
品質工学のやり方は?
わたしがやっていた実験計画法の中のタグチメソッドは、今の専門家の方々は、お勧めしないことが多いようです。
確かに、よく失敗しますし、迷うことが多いです。手計算に近いですし..。
それで、今は、応答曲面法 という手法が使われているようです。
(PC等で簡単に解析できる、アプリもあるみたいです。)
専門家の方が運営しているサイトのリンクを、ここに貼っておきますので、実践方法はそちらで見ていただければと思います。(説明に自信がないのでスミマセン。)(リンク先が新しいタブで開きます)
オススメの入門者用の本も、このページの一番下に挙げておきます。
タグチメソッドを使った事例は、こちらにあります。(リンク先が新しいタブで開きます)
品質工学をやってどうだったか?
開発の初期で原理試作のときにタグチメソッドを使ったことがあります。
いままでにない新規形態の装置だったので、あらゆるユニットの配置を装置のどこにしたら、 最高の性能が出るかを、この方法で試してみました。
実験の数は少なくなるのですが、直交表から色々な種類の組み合わせが指定されるので、準備が大変でした。
でも、品質工学を適用せず、固定観念にとらわれてトライ&エラーを繰り返していたら、これはないだろうと先入観で除外してしまいそうな組み合わせが、最もバラツキが少なく性能も良かったので、とても驚きました。
もし品質工学を使っていなかったら、時間だけ経過、いつまでたっても性能がばらつく..。ということが起きていたと思います。
今もこの装置は、顧客の使用下で性能トラブルなし だと思います。
教訓は、品質工学を適用すると、開発設計の初期に性能品質を良くできて、後々ラクになること、
品質工学のすごさを感じる とても良い経験ができました。
品質工学を適用したもうひとつの事例があります。
顧客に納入して半年ぐらい経過した装置(上記とは装置形態も構成品も全く違う装置)で障害が起きている ということでした。
その原因究明と改善のために、本来ならFTAで済むところですが、その顧客だけ起こる不可解な事象 に思えたので、たくさんのパラメータで原因を追ってみようと考えてタグチメソッドを併用しました。
なんと、3箇所も不具合があり、どれもが障害を起こしている部品に影響を及ぼしている因子でした。
設計検証時に起きた不具合事象を、その場しのぎの対策でなんとかしていた感が否めませんでした。
このあと、うまく対策ができました。
あと、少し反省ですが、この障害調査報告と障害対策を品質保証部へ報告したとき、品質工学で抽出された数点の実験のみでOK・NG判定していると指摘されました。
結局、最終決定した構成で部品の製造ばらつきが出ても、性能のばらつきが許容範囲になることを、検証してOKとなりました。
教訓は、品質工学は原因究明等にも使えるのですが、品質保証の観点からすると、品質工学だけで判定するのはダメということを学びました。
といったわけで、品質工学は 開発設計を進める上でとても有用なツールですので、是非利用してください。
品質工学を使うと、まさかの結果が出たりします。
結果を疑うことと戦う..といった感じです。
でも、やっぱり最高で安定した性能が出るので、
結果を受け入れてます。
是非、使ってくださいね!
おすすめの本
以下は、オススメの入門者用の本です。